※意見には個人差があります。法廷画家の総意ではありません。
- Q・法廷画ってそもそもなぁに?
- Q・法廷画家になるのに資格は必要?
- Q・法廷画家をはじめたキッカケは?
- Q・法廷で座る場所は決まっている?
- Q・開廷前に被告の顔写真をチェックする?
- Q・描くのは、法廷の中で?
- Q・描くとき、まずどこを見る?
- Q・声や表情で反省してるかわかる?
- Q・裁判中、被告の表情は変わって行くもの?
- Q・鉛筆で描くべきとかのルールはある?
- Q・一枚仕上げるまでの時間は?
- Q・他局の法廷画家にライバル心は沸く?
- Q・法廷画家としての失敗談は?
- Q・法廷画を書く上で大変な事は?
- Q・実際の裁判ってどんな雰囲気?
- Q・これまで傍聴した中で印象的な事件は?
- Q・印象深いエピソードなどあれば。
- Q・裁判員制度についてはどう思う?
Q・法廷画ってそもそもなぁに?
A・法廷で行われる裁判の様子を絵にしたものです。
日本では刑事訴訟規則第215条及び民事訴訟規則第77条により、 裁判中に裁判長の許可を得ずに法廷内の写真の撮影が禁止されています。
マスコミが申請すると報道機関の代表カメラが、被告人、裁判員等の入廷前に法廷に入ることが許可され、裁判官や弁護士などの映像が撮られます。
この映像は「あたまどり」と呼ばれ、通常では2分間、最高裁判所では3分間の時間が与えられています。テレビのニュースで流れる法廷内の映像のほとんどがこの「あたまどり」映像です。
それによって「どういう場で誰に裁かれるか」は伝わるのですが、肝心の被告入廷から退廷までの様子をカメラが収める許可は通常おりません。 そのために裁判中の被告の様子、挙動を報道する一手段として、法廷画が活躍します。
法廷画は単なる似顔絵ではなく、裁判中の様子を写すカメラ映像の代わりとして、被告の姿、場の空気などを伝えるために存在しています。
一般傍聴席に座り、社会的に何かしらの影響を与えた被告が、法の前で今どのような態度で裁かれているのかを、穴が開くほどに観察しスケッチブックに写す、その人物のことを法廷画家と呼び、描かれた作品はその日のテレビのニュース番組や翌日の新聞を飾ることになります。
そうして視聴者の方々は世間を騒がせた凶悪犯や汚職政治家が、その後どのような姿、どのような態度で裁かれたのかをビジュアル情報として得られるので、法廷画は裁判報道には欠かせない重要なエレメントのひとつになっているんですね。
Q・法廷画家になるのに資格は必要?
A・いいえ、資格などは一切必要ありません。
法廷自体は基本的に誰でも入れますしスケッチをするのも咎められませんので、誰でもなれるといえばなれます。ただし、それを仕事にするにはもちろん相応の技術と作画スピードが求められます。
Q・法廷画家をはじめたキッカケは?
A・テレビ局から「描いて~」と頼まれたから。
僕は地元が和歌山なのですが、2003年に汚職の疑いで捕まった元和歌山市長がいて、地元のテレビ局がその初公判をニュース番組で報道する際に法廷画家として呼ばれたのが最初でした。
なんでも地元テレビ局が今まで依頼してた法廷画家に頼もうとしたところ、その方がご高齢で廃業されていたそうなんです。それであわてて和歌山で絵を描く職業のプロをネットで探したところ、たまたま僕をみつけたとのことでした。
急ぎでそのテレビ局に来てほしいという依頼が私にきたので行ってみると、重役室に案内され、重役の方を含め三名いらっしゃったんです。当時まだ駆け出しだった私がわけもわからず立ち尽くしていると、重役の方が「私の似顔絵をここでかいてみてほしい。」とおっしゃいました。
ええ、いいですよ。とまあ安請け合いしたんですが、正直それまで似顔絵を描くのは得意な方ではなく、どちらかというとデフォルメキャラクターなどを主に仕事として請け負っていたものですから、通常ですと気が重い依頼でした。
しかし、その方は眉毛が太く、黒縁めがねで、エラがはっていて、なんというかすっごく特徴的だったんですね。これは似顔絵が描きやすい顔だなぁ、これなら似せれるぞ!と思い、5分くらい鉛筆を走らせて完成させました。するとその似顔絵がその場でウケまして。他の二人も「似てる似てる!」と褒めてくださいました。
そこで「実は明日の裁判で法廷画を書いてもらいたいんですが」と話を切り出されたんですよ。今思うとアレは簡単なテストだったんでしょうね。
それから法廷画の仕事が数回あって、それらの絵をホームページで公開していたら、TBSの「みのもんたの朝ズバッ!」というニュース番組からお声がかかり、全国ネットで仕事をするようになって今に至ります。
Q・法廷で座る場所は決まっている?
A・決まってないので早い者勝ち!(一般傍聴席の場合)
背もたれに記者席と書かれてある席は座れないことになっています。通常は記者クラブに所属している記者が腕章をつけて座っています。
法廷での席取りは基本早いもの勝ちです。いい席を取れなかったときはヘコみますが、いったん廊下に出て、ドアについてる小窓をパカっとあけて被告を正面からみたりしてます。あんまり長いこと小窓を覗いてると警備員の方に「開けたらすぐ閉める!」とか言って叱られちゃいちゃいますが。
追記:コロナ禍では法廷画家席が用意されるようになり、報道各社の法廷画家が順番(3~5分おき)に交代しながら描くようになりました。
Q・開廷前に被告の顔写真をチェックする?
A・事前の報道で顔写真が使われている場合はチェックをします。
ですが、報道された当時と風貌がまるで違うという被告人が少なくないのです。報道ではふっくらとした体型だった被告が、初公判では別人のようにガリガリに痩せていてびっくりしたこともありました。
逆にライブドア事件の初公判のときは、ライブドア事件の堀江貴文氏が仮釈放したときに痩せていたので、この痩せた姿を描くんだろうなぁと意識していましたら、初公判のときは元通りの体型になってて逆にびっくりしました。
Q・描くのは、法廷の中で?
A・もちろん法廷の中です。
ただ、僕の場合は鉛筆で書いた下絵をスキャンしてデータ化し、デジタルで着色していますので、デジタル作業は法廷外です。翌日朝のニュースの場合は比較的時間があるので事務所に戻って作業しますが、お昼のニュースなどですと裁判所内の記者クラブのスペースを借りてPC作業したりもします。
ほとんどの法廷画家さんは鉛筆画に水彩や色鉛筆で着色されてるのですが、デジタルのほうが広い面積をすばやく塗れたり、データ納品できたりして便利なので、僕はそうしてます。
30年ほど前は法廷内でメモを取ることは許されていなかったため、絵を描くこともできませんでした。ロッキード事件の法廷画などは目で見て記憶したものを法廷外で描いていたそう。その後、レペタ事件を通じて法廷内で絵筆を走らせれるようになり、オウム事件で大量に法廷画が描かれるようになり、裁判報道のスタンダートになっていきました。
Q・描くとき、まずどこを見る?
A・被告人の目です。
やはり目は口ほどにモノを言うと思います。殺人しても虐待しても、全然悪びれてないようにしか見えない態度をとる人間っていうのがいるんですね実際には。
Q・声や表情で反省してるかわかる?
A・ある程度はわかると思います。
広島である小学生を殺害した外国人の裁判を見に行ったときは「悪魔が自分の中にはいってきてやった。だから自分に罪はない!」って身振り手振りを交えて必死に無実を訴えてました。これには反省の色が全く感じられませんでしたね。
中には「娘さんを殺してしまってごめんなさい」と涙ながらに声を震わせて謝る被告もいます。もちろん演技の可能性もなくはないですが、真に迫ったものを感じます。
Q・裁判中、被告の表情は変わって行くもの?
A・基本無表情ですが、めっちゃ変わる被告人もたまにいます。
不利に経たされると頭を掻いたり、露骨にいやーな顔しはじめるわかりやすい被告人もいます。ずーっと無表情な人もいますが、ああいうのは何を考えてるのか分らないですね。
想像以上に重い判決が下った時に苦虫を嚙み潰したような表情をする被告人もいれば、死刑判決が下っても鉄面皮の被告人もいて、人それぞれです。
Q・鉛筆で描くべきとかのルールはある?
A・基本的には無いと思います。
ただ、傍聴席自体がなんのためにあるかというと、司法が法の下に公平に行われてるかどうかということを国民が実際に見て確認するためにあるんですね。
これは国民の「知る権利」に答えてるわけなんですが、国民が毎度足を運ぶわけにはいかないし、そのために報道機関がありますよね。けどカメラ撮影が事実上禁止されている。その代わりとなるのが法廷画なので、私はなるべく主観を除いた事実を描くようにしています。
それが私の中にあるルールといえばルールですね。あと、スピードが求められるので、手っ取り早くリアルに描けるツールとして、鉛筆が有効なのだと思います。
Q・一枚仕上げるまでの時間は?
A・僕は下絵を描いて着色するまで1~1.5時間です。
クライアントからは幸い早い方だと言われて有難がられています。
Q・他局の法廷画家にライバル心は沸く?
A・別に競ってるわけじゃないのでライバル心はありません。
正直同業者を見てもとくに意識もしませんけど、ニ三度、隣の席になった事があるんです。あのときはなんとなく居心地の悪さを感じますね。なんでしょうあの感じ。
追記:コロナ禍になってからは法廷画家席が指定され、2席隣接しているため常に他の法廷画家と隣り合わせの席になるのでもう慣れました(笑)
Q・法廷画家としての失敗談は?
A・特に無いですけど…。
あえて言うなら昔はちょっと感情移入しすぎるところがあったようで、まるで被害者遺族のように被告に怒りを覚えることがしばしばありまして。不条理極まる凄惨な事件の公判の日の夜は、もう憤慨やるかたなくて眠れなくなったりしたこともありました。
「こんな理不尽なことが許されていいのか…」とかいろいろ考えてしまうんですね。最近では距離のとり方を経験から学んだのか、そういうことはなくなりました。
Q・法廷画を書く上で大変な事は?
A・とにかくスピードが求められるところ。
あとは、法廷画になるような被告は、社会的になんらかの影響を与えて大きく報道された人物が多いですから、それらの被告が現在、どういう態度で裁かれているのか、反省している素振りはみせているのか。といったことを伝えるのは、社会的意義があると思うのです。なので、その責任を感じながら仕事はしています。
あと、裁判の内容によっては非常に血なまぐさいグロテスクな話題を延々と聞かされることになるので、そういう話(例えばバラバラ事件の遺体の処理の仕方など)が苦手な方は大変だろうなと思います。
凄惨な陳述内容が続いた後、裁判員の一人が「うう~~」と声をあげながら泡を吹いて倒れた現場に居合わせたことがあります。流血描写に耐性がないと精神的にはキツいかもしれません。公判は一時中断しましたが、補充裁判員がすぐに呼ばれ、滞りなく進行しました。
Q・実際の裁判ってどんな雰囲気?
A・ご想像通り陰鬱な雰囲気です。
僕の場合、残酷な事件の裁判に呼ばれることが多いですから。被害者遺族の方と、加害者が狭い部屋の中に一緒にいる…というのがもう、空気が非常に重いですしね。加害者が反省の色を見せてなければ最悪です。傍聴席からすすり泣きの声が聞こえたりすることも多いですし、嫌なモノですよ。
ただ、軽い刑事事件ですと、たとえば下着泥棒とか、置き引きとかですと、そうなるにいたった被告の人生などが裁判で語られたりしますので、そこにドラマ性を感じて趣味で傍聴に行く方も少なくないと聞きました。傍聴マニアというか、裁判ウォッチャーとかいうそうです。僕はそういう趣味はないですけれど。
Q・これまで傍聴した中で印象的な事件は?
A・ライブドア事件の堀江貴文氏の初公判ですね。
50数席分の傍聴券をもとめて2002人ならんだそうです。私もその一人でした。少ない傍聴券をめぐってマスコミは人海戦術を使うんです。報道関係者ならカメラマンや音声さんもみんな並びますね。
他には並び屋と呼ばれる人たちを雇って行列に並ばせます。その内の誰かがクジを当てると記者と法廷画家が入れるわけです。東京地裁の上空にヘリが3台くらい飛んでましたし、とにかくすごい賑わいでした。
持ち物検査もいつもより厳しかったのが印象的です。ちなみに持ち物検査は東京地裁だけで、他の地方裁判所では通常行われていません。
追記:2018年ごろから横浜地裁や大阪地裁など都市部の裁判所で持ち物検査するところが増えました。
Q・印象深いエピソードなどあれば。
A・いろいろあるので別途まとめようと思います。
<一例>
・死刑判決が下ると傍聴席の報道陣が数十人一斉に立ち上がってドドドド!と出口に駆け込んで退廷する。一秒でも早く報道するためなのだが、判決が死刑なことよりも、その時の勢いがすごすぎて毎回びっくりするという話。
・埼玉連続不審死事件の木嶋佳苗被告。見た目はとても異性にモテると思えないルックスだが声がソプラノ声というかアニメ声というか、想像つかないほどの美声。所作もしゃなりとして女性的。男性がつぎつぎと毒牙にかかっていたのも、ある意味で頷ける説得力があったという話。
・「働きなさい」と叱られたことに腹を立てて母親を撲殺してバラバラにし、内臓をホットプレートで焼いていた38歳ニートの被告人(焼くと腐らないと思ったらしい)が、母親の貯金をおろして韓国に逃亡。裁判で「どこにいってたの?」と聞かれて「焼き肉屋めぐりしていた」と供述。どんだけ焼き肉好きなんだ・・・と思ったダークな話。
・無銭飲食を12件繰り返す被告に検察官が起訴状を朗読し、罪状認否を取るのだが、長々と起訴状を読んだあと、被告人に「間違いないですか?」と聞くと高齢の被告人が「ふぇ~~?きいてましぇんでした~~」とすっとぼけた返事。もう一回繰り返すも「はい~~?」と生返事。相手する検察官も「も~~~どっから聞いてなかったの?途中から?はじめから?」とキレる始末。おりしも傍聴席は社会科見学に来た小学生の集団。笑う小学生にキレる大人。シュールな法廷であった。
・会社の経理担当者が6億円横領してキャバ嬢に貢いでいた詐欺事件。被告人はその女に大変入れ込んでおり歯止めが効かなかった、とのことだが当の女性はホストクラブにハマって1円も残っていないらしく刑事処分もなしとのこと。被告人は懲役7年の判決。後日テレビ番組のインタビューで「(被告人に対して)これからは横領とかしない人生を歩んで欲しい」などとぬけしゃあしゃあと答えており、なんとも言えない気持ちになった話。
etc.
Q・裁判員制度についてはどう思う?
A・裁判員制度は基本的に賛成です。
批判的な意見が目立ちますが、司法の判断はプロに任せればいいとか、国がまた国民に義務を押し付けているとか…。たしかに一度選ばれるとちょっとやそっとでは断れないという部分は是正する必要があると思いますが、だからと言ってこの制度自体がまるで戦前の徴兵制のような勢いで非難されるのはどうかと思います。
現在の司法の判断には問題があると思います。犯罪者に甘い。前例至上主義的で、判決にとても納得できないような例が多くみられます。実際の裁判を傍聴して、「ええ?こんなことが情状酌量になるの?」と思うようなこともありましたし、今のような「前もこういう犯罪のときはこれくらいの罪だったし」という前例至上主義では国民感情と乖離した部分が生まれると思います。そこで国民に参加してもらって民意を問う、というのはとても意義があることだと思うのです。
絶対反対と言ってる人たちには、「被告に死刑宣告なんてとてもできない!」みたいな極端なことを言ってたりしますけれども、裁判員が判決を下すわけではありませんし、そもそも適用されるのが一審だけです。まずは正確にこの制度について知ることが大事だと思いますね。
もうすぐ始まって、いろいろ問題もあるでしょうけれども、新しい制度が始まって最初からうまくいくことなんて有り得ないと思うのです。問題ある部分はこれから是正していけばよいし、「殺人者の顔なんてみたくない」っていう心情はわかりますけど、国民が世の中の出来事に当事者意識をもつようになるということがこの制度の目的なわけですから、僕は賛成なのです。この制度をもって従来の司法の判断に好影響がでることを願っています。(2008.5.9)
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