私はあくまで一法廷画家です。司法に携わる人間でもなければ、裁判の専門家でもありません。
  門外漢は承知の上で、それでも今までの裁判傍聴の経験上、「これってどういうことだろう?」という疑問を持ち、
  自分なりに調べた結果のいわゆる「法廷雑学」をここで紹介したいと思います。
  ちょっと人に話したくなる雑学って面白いですよね。堅苦しい知識よりも対象が近くに感じられる、そんな雑学が私は大好きです。
  それでは、「素人なりに調べてみて、へーえそうなんだ、と思えたちょっとイイ雑学」をお楽しみください。   



日本の裁判では裁判長が木槌を叩かない。

ドンドン!「静粛に!」なんてシーンがドラマや映画で多くみられますが、あれは他国の裁判の影響であって、日本の裁判所で木槌を使うことはありません。そういえば某裁判ゲームでも木槌を使ってましたね。最近の映画ではリアルな法廷の姿が描かれることが多くなりましたが、昔の映画などの影響で誤解してる人は今でも少なくなさそうです(経験上)。
ちなみにあの木槌の正式名称は「ガベル(Gavel)」といいます。中国の裁判所では2002年6月に正式採用されたようです。





裁判長が着ている服が黒いのにはワケがある。

裁判長や裁判官が着ている服は法衣といい、黒い服は他の色に染まらないことから「何色にも染まらない公平な判断をする」という意味がこめられています。いかなる場合も、そうであってほしいですね。





法廷で一般傍聴人が禁止されている意外なモノ、コト。

はちまきやゼッケン、たすき、腕章は着用してはいけないことになっています。腕章は裁判所が正式に交付したモノと紛らわしくなるからダメってことはわかるんですが、はちまきもダメってのが解せませんね。(団体の象徴となるからだそうですが) 許可なしに撮影、録音、録画及び送信も禁止。飲食や本や新聞を読む行為も禁止されています。あとはゲタ履き。理由は「歩くとウルサイから」だとか。日本の裁判所でゲタを履いてはいけないっていうのはなんだか不思議な気もしますね。裁判所は騒音に関しては厳しくて、私語はもちろん拍手することも禁止されています。その一環でしょう。ちなみに思わず居眠りをしてイビキをかいてしまい、それがあまりにウルサイからと裁判長に退廷を命じられた人を僕は知っています。傍聴中はとにかく音には気を付けましょう。





傍聴する時の服装はフォーマルなものじゃなくても良い。

普通に街を歩ける姿なら問題ありません。一応公式発表の注意事項には「服装を整え」とありますが、Tシャツにジーンズで全く問題ありません。それどころか結構奇抜な服装の方も時折いらっしゃいます。ある裁判では被害者遺族らしき方だったのですが、紫やショッキングピンクが目に映える、「なんてパンクなイデタチなんだ・・・!」と思える格好で傍聴されておりましたが、それでも警備員や裁判官に注意されるようなことはありませんでした。上記の「はちまき・ゼッケン・たすき・腕章の禁止」さえ守っていればほとんどの服装で大丈夫でしょう。(自己責任でよろしくです☆)





裁判所では必ずしも手荷物検査されるわけではない。

入場に手荷物検査が必須なのは全国で東京地方裁判所のみです。他の裁判所では普通「え、これでいいの?」と思えるくらいスムーズに法廷に辿りつけます。ある裁判傍聴の日の朝、僕は鉛筆削りを紛失してしまい、仕方なくカッター(大きいサイズのモノ)をもって出かけたのですが、なんの問題もなくそのまま法廷内に入れました。その日の裁判は実に陰鬱な内容で、まったく非が無いのに無残に殺害されてしまった被害者の遺族たちのすすり泣きが響く法廷で、反省の色を一切見せない被告に言いようの無い怒りを感じていました。はっと気づいたのですが、僕は今刃物を持っている。そして被告は一二、三歩もふみだせば頭をつかめるほどの距離に居るのです。それはもし僕が報復感情に燃える被害者遺族であったなら、「おのれー!」と被告の首に斬りかかることも物理的には可能な距離でした。けど、全国でそういうニュースは見たことありませんね。それどころか被告に対するヤジひとつ聞いたことがありません。日本人って基本的にはおとなしいんだろうなぁと思います。





裁判中の撮影をしてはならない意外な理由とは。

日本でも戦後間もない頃まで、裁判中の様子を撮影することはまったく問題がありませんでした。現在も当時の報道機関が撮影した写真が現存しています。ただ昭和20年代のカメラの性能では、室内の写真を撮るのに大掛かりな照明器具を持ち込まないと明るく綺麗に撮れなかったので、それが裁判の邪魔になっていたそうです。ある裁判中、そんな照明器具の電球が割れて、裁判官が怪我をしてしまうという事件がおきてしまいました。それを受けて昭和24年、裁判中の撮影が許可制となり、申請すれば「あたまどり」こそ許可されるものの、事実上の禁止となって現在に至ります。
被告や証人のプライバシーの問題とかではなかった
んですね。





意外にも裁判所で飲み会ができる。

東京地方裁判所の地下には食堂が2つあります。第一食堂は食券を買い、トレーで運ぶカフェテリア方式。第二食堂「八千代」はレストラン方式。こちらは一見普通の食堂ですが、なんと17:00からは居酒屋に変身します。男性は1500円(最近は1000円の日もある模様)、女性は800円で飲み放題。生ビール、日本酒、サワー、八千代特製ウーロンジョッキなどもあり、メニューは和洋中取り揃えられています。勝訴の暁には一杯やっていく弁護団とかもいるんでしょうか。19:00にはラストオーダーなので、軽く一杯するのに需要あるのでしょうね。





裁判所の中で勉強ができる?

東京地方裁判所の地下には食堂の他に、コンビニや理髪店、書店なども営業しています。書店はさほど広くありませんが、「図解・裁判のしくみ」(ナツメ社)、「だれでもわかる精神医学用語集」(民事法研究会)、「裁判員の教科書」(ミネルヴァ書房)、「もしも裁判員に選ばれたら」(花伝社)など、さまざまな専門書も販売されているので、裁判に関する知識を付けたい方にはうれしい品揃えですね。他にも「司法のしゃべりすぎ」(新潮新書)、「日本をダメにした10の裁判」(日本経済新聞出版社)、「こんな日弁連に誰がした?」(平凡社)など、裁判や司法制度に批判的な書籍も多数見られました。こんなところにも物事に公平であるべき裁判所らしさが伺えますね。





被告人がネクタイをしていない理由とは。

裁判を受ける被告人が背広を着ていてもネクタイをしていない理由は、身柄拘束されている被告人に対する差し入れにネクタイやベルト類が禁止されているためですが、その理由は自殺防止のためなのです。
留置場では同様の理由で衣類のひも類がすべて外されます。ベルトやひもで閉めるタイプのズボンは使い物にならないため、ゴムで閉めるタイプのジャージ類が一番便利ということになります。被告人にサンダル履きが多いのは、靴だと走って逃げやすくなるためという理由だそうです。なるほど頷けますね。





法廷内でメモとっちゃダメってばっちゃが言ってた。

実は25年ほど前までは、法廷内でメモを取ることを禁止されていました。メモがダメなので当然絵もダメ。法廷画も描けなかったのです。これが解禁されるのは 「法廷メモ訴訟」がきっかけで、通称「レペタ事件」と呼ばれています。

アメリカの弁護士であるローレンス・レペタは日本において経済法の研究に従事していました。その研究の一環として所得税法違反事件の傍聴を行う際に、傍聴席でメモをとっていたら、裁判官に叱られて退廷を命じられます
その後レペタは 「メモを取る許可願」を7回にわたって裁判所に提出しましたが、認められませんでした。

そこでレペタはメモ採取を認めない措置は憲法21条、国際人権規約19条、憲法82条刑事訴訟規則215条、憲法14条に違反することを理由に国際賠償法1条に基づく損害賠償をもとめて提訴。これが「法廷メモ訴訟」です。

第一審は昭和62年1月12日判決において、「表現の自由として裁判の内容を認識する自由をみとめたものの、法廷でのメモ行為はこの認識の「補充行為」と捕らえて憲法上当然に保障されていないとして請求を退けました。

レペタの控訴に対し、またも「訴訟の公正かつ円滑な運営」という利益を強調して控訴を棄却。
レペタはこれを不服として上告しました。レペタさんの執念に感服です。

最高裁判所は、平成元年3月8日の大法廷裁判において、「憲法82条1項は、法廷で傍聴人がメモを取ることを権利として保障しているものではない」としつつ、「法廷で傍聴人がメモをとることは、その見聞する裁判を認識、記憶するためにされるものである限り、憲法21条1項の精神に照らし尊重に値し、故に妨げられてはならない。」と判示しました。

そのうえで「公正かつ円滑な訴訟の運営を妨げる場合」には禁止されるべきであるが、しかしそれは「通常ありえないのであって、特段の事情のない限り、これを傍聴人の自由に任せるべき」であると判断しました。

この画期的な判決によって全国の法廷から「傍聴メモ禁止の措置」が瞬時に姿を消すことになり、今に至ります。
この裁判でレペタが実質勝訴したおかげで現在の法廷画があるんですね。





最高裁判所長官の月給って・・・おいくら?

最高裁判所長官の月給は衆参両院議長、内閣総理大臣と同じで、公務員では最高額です。三権分立のトップ同士が同じ給料になるよう設定されているのですね。ちなみに少々古いですが2004年3月のデータでは2,227,000円とのこと。安いのか、高いのか、僕にはわかりません。





法廷と同じインテリアにしたいんだけど、できる? (そんな人いないと思いますが・・)

法廷と同じ家具を買おうと思えば、買えます。裁判官机、検察、弁護人机、書記官机、被告席、証言台を取り揃えた株式会社岡村製作所の「ロースクールファニチュア」は本来法科大学院の模擬法廷用ですが、一般の人でも買えます。
ちなみに証言台は1台、284,550円だそう。たっか!





知っておきたい裁判員の義務。

一生のうちで裁判員に選ばれる確率は67分の1程度といわれています。他人事ではないですね。個人的には嫌な人には無理やりさせるなよ、と思いますが、もう法律きまっちゃったものは仕方ない。「仕事が忙しい」は辞退理由にはならず、「病気や怪我で参加できない」「自分以外に乳児の面倒を見る人がいない」などの裁判所が認める正当な理由がなければ断れないというのはキツいと思います。あと、後期高齢者や学生は「イヤ」と言えば断れます。それ以外の方は選ばれた場合、法律的に生じる「義務」について知っておく必要があると思います。

まず、選出されたことは必要以上に他人に話さないこと。評議の内容も同様で、マスコミに話したりホームページに掲載してはいけません。守秘義務ってやつですね(判決後なら可)。あと裁判員同士なら飲みに行ったりしてもいいそうです。

死体や解剖の写真も場合によっては見る必要があります。この辺がどうかと思うんですよね。見たくないですよハッキリ言って。戦争映画大好き人間の僕でも確実にトラウマになる自信があります。
裁判書記官はパソコンを持ち込んでますが、裁判員はダメですし、法衣を着込むなどのコスプレ行為も禁止されています。「なんちゃって裁判官」にはなれないということですね。

あと、意外に知られていないのが公判中でもトイレは自由に行けることと、体調が悪くなったら帰っても良いこと(グロ写真見せられて体調悪くしたら本末転倒な気が・・・)。あとは、どうしても決定できない場合は「わかりません」と答えてもよいこと。その場合無罪となります。 そして厳しいのは、守秘義務を怠ると6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられること。評議を無断でサボっても10万円以下の罰金です。

午前中(面接)のみの人(候補者)は8,000円以内、午後に実際に裁判員を行った人には10,000円以内の日当(金額はそれぞれの裁判所が決めます)が出ます。ペナルティが大きいわりには安い気がしますね。それでも、個人的には一生のうちに一回は裁判員を経験しておきたいと思います。メモを取るのは自由ということだから、絵を描いても当然いいでしょう。と、いうことは史上初の「裁判員視点での法廷画」が誕生ことになるかも!!・・・と、思ったらメモは帰宅時に破棄する必要があるそうです。うーむシビアですね・・・。






その他プチ雑学いろいろ。

裁判長が判決言い渡しのときに添える言葉は「説諭」といいます。 2002年に少年事件でさだまさしの「償い」という歌を引き合いに出した裁判官が話題になりましたが、特に法的意味はないようです。

■証人が法廷で読上げる「宣誓書」には全てふりがなが付いています。その文面は「せんせい りょうしんにしたがってしんじつをのべ、なにごともかくさず、いつわりをのべないことをちかいます。」

■裁判官が着ている法服は「羽二重」という高級シルク製。いつもきちんとしているように申請すればいつでも新しいものと取り替えてくれるそうですよ。ちなみに法廷内では書記官も法服を着ていますが、こちらはポリエステル製だそうです。そんな所で差別化されているとは・・・。

■東京地方裁判所の一階ロビーにある大シャンデリアは、普段消えていますが、依頼があったときのみ点灯すそうです。定年で裁判所を去る人を送りたい時とか、外国の裁判官の訪問がある時、などなど。へえー。

■刑事事件の犯人を「被告」と呼ぶのは実は間違いで、「被告人」が正しい。「被告」と呼ぶのは民事事件の時のみです。弁護士の呼び方も刑事裁判では「弁護人」、民事では「代理人」と呼びます。

■検事が使っている紺色の風呂敷は検察庁から支給されたもので、検察マークが入っています。たくさんの書類を持ち運ぶのに、カバンより軽くて便利なんでしょうね。僕が風呂敷をみるのは検事さんのモノくらいです。重大な刑事事件ですと、ホントに山のような書類をこれで運んでます。おつかれさまです。




出典
・裁判トリセツ(オカヂマカオリ著)・裁判のしくみが面白いほどわかる本(伊東良徳著)・B級裁判傍聴記(阿曽山大噴火著)
・史上最強図解裁判のしくみ(ナツメ社)
・アングラードガッチ・レポート03 ・最高裁判所ホームページ ・Wikipedia ・雑学家

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